治療家の就職フェアで学生が見誤りやすい3つの表記。人材紹介のプロと話した求人の読み解き方
セラピスト向け
求人票の「0.1の事実」を見抜く。トレーナー・休日・賞与の読み方
X(旧ツイッター)で「就活フェアに来ている企業の大半が詐欺だ」という投稿を見かけました。本当にそうなのか、治療業界に特化した人材紹介会社を17年続けている塩田宗一郎さん(株式会社人事アイデア代表)と動画で話しました。結論から言うと、まるごと嘘の求人は減っています。代わりに「0.1の事実を10に見せる」見せ方が広がっている。この記事では、その見せ方の代表的な3パターンと、フェアの場で何を聞けば実寸が出てくるかを、これから就活する学生と3年目までの若手に向けて書きます。
塩田さんは治療業界の採用を専門にして17年目、「採用に関しては業界でいちばん詳しい」と自負する方です。就職フェアの現場を毎年見ている立場から出てきた話は、求人票の読み方の教科書のような内容でした。動画では笑いながら話していますが、内容はかなり具体的です。
株式会社人事アイデア代表・塩田宗一郎さんとの対談動画。本記事は要点を絞っているので、細かい言い回しや具体例は動画で確認できます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎「圧倒的な技術」と「トレーナー活動」は、何年目から何ができるかで測る
どの会社も「圧倒的な技術が学べる」と言います。塩田さんが問題にしていたのは、入社しても実際には研鑽の場がない職場です。技術を掲げること自体は自由でも、練習していない会社は嘘をついていることになります。
それ以上に差が出やすいのがトレーナー活動です。5年ほど前は「トレーナーをやっている」と言えば学生が採用できたため、実態がなくてもアピールする企業が続出しました。今は実際に活動している企業も増えましたが、交通費が出ない、休日を削って行かされる、現場でやっている内容がマッサージだけ、という職場が少なくありません。学生が思い描くトレーナー像と、現場の実寸がかみ合っていないのです。
対策は単純で、時間軸で聞くことです。塩田さんが挙げていた質問を並べます。
- 何年目からトレーナーの現場に出られるのか。今年出た先輩は入社何年目か
- 現場に出る前は、どういう環境で何を学べるのか
- 今入社したら、どのくらいの時期に、どんな内容を任せてもらえるのか
- 交通費や活動日の扱いはどうなっているのか(休日扱いか、勤務扱いか)
もう一つ、誰の話を信じるかという視点も出ていました。人事担当者の中には、一般企業出身で現場を知らず、採用ノルマのために話を大きくしている人もいます。現場上がりで、自社に誇りを持っている幹部クラスの話のほうが実態に近い、というのが塩田さんの見立てでした。ブースで話している相手の経歴を聞くだけでも、情報の重みが変わります。
学生の側にも、地に足を着ける意識が要る
塩田さんは学生側にも率直な言葉を向けていました。「トレーナーをやりたい」「ケガをみたい」という希望自体は良い。ただ、目の前の患者さんを差し置いて「私がやりたいから」と言うのは順番が違う、という指摘です。選手も患者さんも、経験の浅い人に任せたいとは思っていない。その現実から目をそらさず、一段ずつ階段を登る意識を持ってほしい、と語っていました。
これは学生に厳しいというより、就職後の失望を減らすための話だと受け取っています。早く一人前になりたい気持ちと努力量のギャップについては、治療家を目指す学生の本音を書いた記事で扱っています。
給料と休日の「クロスパターン」と、年間休日に紛れ込む有給
待遇面では、給料の金額そのものに嘘をつくケースは減ったそうです。代わりに出てきたのが、塩田さんが「クロスパターン」と呼ぶ見せ方です。完全週休2日制のときの休日数と、月6日休みのときの高い給料を、同じ求人票に並べて見栄えを良くする。両方は同時には成立しません。休みが多い働き方を選べば給料はその条件の金額になり、高い給料を選べば休日は減ります。
もう一つが年間休日の数字です。本来、年間休日は会社が定める休日の日数で、有給休暇は別枠です。そこに有給を含めて日数を多く見せている求人があります。年間休日120日と書いてあっても、内訳を聞くと100日と有給20日だった、ということが起こり得ます。
「この給料は、この休日数のときの金額ですか」「年間休日の数字に有給は含まれていますか」。この2つを聞くだけで、クロスパターンはほどけます。初任給の数字だけで職場を選ぶ前に考えたいことは別の記事に、年収の平均と中央値の違いは柔道整復師の平均年収の記事に書いています。
賞与の表記は、誰の数字かを確認する
塩田さんが最も悪質だと言っていたのが賞与の見せ方です。この業界は院長が一人勝ちしやすい構造になりがちで、数百万円の賞与を受け取っているのはトップの数名だけ、という会社は珍しくありません。それを「賞与〇〇万円稼げます」と、全スタッフが受け取れるかのように掲げる。社長の年収を平均年収に足して計算しているようなものだ、という例えが動画で出ていました。
背景にはポストの数があります。多店舗展開しているグループ院では、スタッフが100人以上いても院長の枠はわずかです。昇給やキャリアアップを望んでも、順番待ちで上がれない。これは個人の努力の問題ではなく構造の問題で、入社前に知っておくべきことです。
- その賞与を実際に受け取っている人は、スタッフ何人中何人か
- 院長になった人は入社何年目で、今その順番を待っている人は何人いるのか
- 新卒3年目の平均的なスタッフの年収はいくらか(トップの数字ではなく)
給与が上がらない理由を構造から見た話は柔道整復師の給料が上がらない理由の記事で、職場選びで見たい会社の数字は経営が危ないときのサインの記事で扱っています。
求人票の「勤務時間」が、実は受付時間になっている
残業についても、求人票と実態の差が大きい項目です。勤務時間の欄に書かれているのが、実は院の受付時間そのまま、というケースが多い。「見込み残業代でカバーしている」と言いながら、実際には夜10時半まで帰れないのがざらだ、と塩田さんは言います。労働時間を厳密に管理しているのは一部の上場企業くらいで、それ以外はまともに管理されていない、というのが現場を見ている人の実感でした。
意外だったのは、小さめの個人院のほうが「夜に残ってだらだらする無駄な残業」をさせない傾向がある、という指摘です。大きい会社ほど管理されているという思い込みは、この業界では当てはまらないことがあります。
この話を聞いて、瀬谷崎の側にも気づきがありました。フェアで皆が同じように「帰りが早い」「トレーナーができる」と言うなら、逆に「うちは帰るのが遅い日もある」「トレーナーはやらない」と正直に言ったほうが、学生からの信頼は高いのではないか。採用する側の話ですが、読んでいる若手の先生が数年後に採用に関わるときの参考にもなると思います。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎高級寿司を握りたい人が、回転寿司に就職している
ではなぜ、学生はこうした見せ方に乗ってしまうのか。塩田さんは寿司に例えていました。「将来は一流の寿司職人になって高級な寿司を握りたい」と言っている学生が、仕込みも修行も要らない大量生産型の回転寿司チェーンに就職している。職人志向の学生が、仕組み化された大量施術型のグループ院を選んでいる、というミスマッチです。
回転寿司が悪いわけではありません。仕組み化には仕組み化の良さがあり、そこで伸びる人もいます。問題は、業界の構造を知らないまま、就職フェアに出ているグループ院だけを見て「これが業界のすべてだ」と思い込む情報不足のほうです。
塩田さんが提供している「整骨院ポジションマップ」は、業界の中にどんな立ち位置の職場があるかを俯瞰する資料です。多店舗のグループ院、個人院、整形外科、スポーツ現場、自費専門の院など、業態によってスタートラインも学べる内容も違います。自分がどの位置を目指すのかを知らないまま比較しても、選びようがありません。
対策は、複数のポジションを実際に見ることです。グループ院だけでなく個人院や他の業態も含めて比較する。いろいろ見た上で「ここだ」と自分で選んだ人は納得しているので、定着率も高い。逆に1社に絞り込んで決めた人は、入社後に別の世界を知ったときに揺れやすい、というのが人材紹介の現場で見えている傾向でした。
3年目までの若手にも、外を見る効用がある
この話は学生だけのものではありません。塩田さんは、すでに就職して3年目以下の若手にもこう勧めていました。「今の会社もチームも好きだけれど、未来があまり明るくないと薄々気づいているなら、一度外の世界を見てほしい」。比較することで「やっぱり今の自分の会社は最高だ」と再確認できるケースも多いからです。外を見ることは裏切りではなく、自分の現在地を知る手段だという位置づけです。
大手から転職した若手の実感は若手が本当に伸びる職場の条件を書いた記事に、見学より練習会を見てほしいという当院の考えは東武練馬院のルームツアー動画の記事にあります。
王道しかない。早く始めて、複数を見て、根掘り葉掘り聞く
結論は派手ではありません。就活は1〜2年生のうちから早めに始めること。いろいろな企業に足を運ぶこと。フェアでは実態を根掘り葉掘り聞くこと。塩田さんの言葉を借りれば「つまらないことをちゃんとやる」しかない。他業界の学生が当たり前にやっている就活を、治療家の世界でも文化にしたい、というのが塩田さんの活動の軸です。
動画の概要欄には、塩田さんが作った治療家専門の適性検査の案内があります。検査件数は1,000件を超えているそうです。自分がどのタイプかを知ってから企業を見ると、比較の軸が定まります。
とんとん整骨院としての立場も添えておきます。数字で誇張しないこと、練習の場があることを実物で見てもらうこと。この2つは自分たちが守りたい採用の作法です。流れ作業の施術はしたくない、正しい知識を学びたいという柔道整復師や鍼灸師の方は、同業の先生の見学も歓迎しています。
瀬谷崎





