人材紹介のプロが学生に勧めたい治療院の3つの特徴。院を閉じる勉強会、家族を呼べるか、院長の二面性
セラピスト向け
家族を呼べる職場か。マニュアルと回数券は、位置づけで別物になる
接骨院は全国に5万件以上あると言われます。その中で、治療業界専門の人材紹介を17年続けている塩田宗一郎さん(株式会社人事アイデア代表)が、学生に「ここは一度見てほしい」とすぐ名前を挙げられるのは10社、多く見ても20社ほどだそうです。何がその差を分けているのか。動画で聞いた3つの特徴と、よく批判の的になるマニュアルや回数券をどう考えるかを、これから職場を選ぶ学生と、今の職場に迷いがある若手の先生に向けて書きます。
塩田さんは治療家ではありません。採用の現場を外側から見続けてきた第三者です。瀬谷崎にとっては業界で数少ない友人ですが、とんとんにはほとんど人を紹介してくれません。その理由も含めて聞いた対談でした。就職フェアの求人票の読み方を聞いた前回の対談記事の続きにあたります。
株式会社人事アイデア代表・塩田宗一郎さんとの対談動画。本記事は要点を絞っているので、細かい言い回しや掛け合いは動画で確認できます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎特徴1 わざわざ院を閉じて、全員が集まる時間を作っている
塩田さんが最初に挙げたのは、院を閉じてでも全員が集まる機会を作っている会社です。そこで勉強会をする、懇親会を入れる。内容は何でもよく、大事なのは「閉じている」ことだと言います。
院を閉じれば、その時間の売上はなくなります。経営者にとっていちばん手放したくないものを差し出してでも、スタッフを育てたい、考え方をそろえたいと思っている。求人を出す会社はどこも思いを語りますが、その思いが行動になったいちばん分かりやすい形がこれだ、というのが塩田さんの見方でした。
もう一つ、規模が大きくなったときの話も出ていました。店舗が増えると、同期の顔も知らないということが普通に起こります。全員が集まる場があるかどうかは、その会社が人のつながりをどの程度大事にしているかの目安になります。見学のときに聞くなら、次のような質問です。
- 営業時間を削って行う勉強会や研修はあるか。月に何回、何時間か
- それは勤務時間の中か、休日や営業後か
- 他店舗のスタッフと顔を合わせる機会は年に何回あるか
練習の時間を会社がどこまで守るべきかは、治療家の練習時間をどう守るかの記事で書いています。
特徴2 自分の家族や友人を、自分の院に呼べる
2つ目は、スタッフが自分の家族や身内を患者さんとして呼べるかどうかです。親が腰を痛めたときに「うちの院長に見てもらいなよ」と言えるか。遠くに住んでいても「それでも一度うちに来たほうがいい」と言えるか。
塩田さんによると、「うちに来てもな」という言葉を現場で本当によく聞くそうです。理由としてよく出てくるのが、回数券の提案が先に立ってしまうので家族には勧めにくい、というものでした。自分が毎日やっている仕事を、いちばん大事な人には受けさせたくない。これは働く側にとっても苦しい状態です。
同じ意味合いで挙がったのがリファラル採用です。リファラル採用とは、スタッフが自分の友人や知人を「うちにおいでよ」と誘って入社につながる採用のことです。スタッフが100人いれば、その周りには同級生や元同僚の治療家が何倍もいます。どこも採用に困っているのに、スタッフが誰も呼ばないとしたら、それが答えになっています。「連れてきたいけれど、たぶん合わないと思う」とスタッフの側が先にふるいにかけていることも多いそうです。
特徴3 院長に二面性がない
3つ目は、院長が患者さんに見せる顔と、スタッフに見せる顔が別人になっていないことです。患者さんに対して感じのいい院長はたくさんいます。一方で、スタッフを自分の持ち物のように扱ってしまう院長も少なくない、と塩田さんは言います。
ここには構造的な理由があります。見学や面接の段階では、学生はまだお客さんとして扱われています。入社して給料を払う関係になった瞬間に、接し方が変わる。個人院では上司が院長一人なので、その変化がそのまま出ます。
塩田さんは院長の側の事情にも触れていました。3人ほどの院で1人採用するとき、利益に余裕があるわけではないので、実質的には院長が自分の取り分を削って給料を出しています。だから新人が一生懸命に見えないと腹が立つ。気持ちは分かるけれど、それを感情で処理せず、丁寧に教えていけるかどうかが分かれ目だ、という話でした。
瀬谷崎が「自分は患者さんとスタッフで言葉遣いも態度も全く違う」と言ったとき、塩田さんの答えは「変わっていいものと、変わってはいけないものがある」でした。言葉遣いや厳しさは相手によって変わって当然です。変わってはいけないのは、相手を良くしたいと思っている姿勢のほうです。そこが同じなら二面性とは呼ばない、という定義でした。
とんとんは3つに当てはまるのか
動画の中で、この3つを自分の会社に当ててみました。
1つ目の「院を閉じる」は当てはまります。月に2回、半日院を閉めて理念研修を行っています。定休日の練習会とは別の時間です。
2つ目は半分です。スタッフの家族が通っている例は多くありません。ただ、それは遠方に住んでいる家族が多いためで、近くに家族がいて他の整骨院に通っていたら「いや、うちに来てよ」と言うだろうとは思います。問題はリファラルです。とんとんにはスタッフの紹介で入った人がほとんどいません。厳しい会社だと思われていること、勉強しない人は合わないとスタッフ自身が感じていることが理由だと考えていますが、呼ばれていないという結果は結果として受け取っています。
3つ目について、採用の窓口を担当しているスタッフは、応募者に対して患者さんと同じくらい丁寧に接しています。ところが最終面接で瀬谷崎が出てきて、説教めいた話をしてしまうことがある。ここで落差が出ているかもしれません。塩田さんからは「患者さんに対する姿勢と、入社前後の姿勢は変わっていないはずだ」と言ってもらいましたが、外に出している顔のほうが怖いと言われることもあります。その話は瀬谷崎は怖く見られるのかを書いた記事と、スタッフに社長の裏の顔を聞いた記事にあります。
マニュアルは悪者か。50点を出せる仕組みと、その先があるかどうか
職場への不満としてよく挙がるのが、マニュアルと売上重視です。塩田さんが例に出したのは、勉強会にも通って臨床を積んできた3年目の方の話でした。院長が勉強家だと思って入った職場で、人を雇うのをきっかけに外部のマニュアルが導入された。その中身が「肩こりの人には全員、巻き肩だと伝える」という類いのもので、それ以外の説明は認められない。考えて臨床をしてきた人ほど苦しくなります。
これに対して瀬谷崎は、あえて反対側から聞きました。とんとんもマニュアルはかなり細かく作っています。経験の浅い人が自分の判断だけで説明すると、もっと危うい内容になることがある。決まった説明で50点しか出せなくても、50点は確実に出せるならそのほうがましな場面はあるのではないか、と。
塩田さんの答えは「それは正しい。問題はその後だ」でした。50点で良しとして終わるのか。それとも、ここから先はこう考えるべきだとみんなで話し合い、より良いものに作り替えていく前提があるのか。後者があれば、考えたい人もそこまで不満を持たない。マニュアルがあること自体ではなく、マニュアルが天井になっているか、土台になっているかの違いです。
とんとんでは、マニュアルが細かいことへの不満をほとんど聞きません。技術チェックで手順をそろえた上で、その検査で何を疑っているのかを説明できるかまで問うようにしているからだと考えています。その考え方は技術チェックが問う臨床の理解の記事に書きました。
回数券も同じ。何のための仕組みかで中身が変わる
回数券についても同じ構図です。とんとんにも回数券はあります。以前は用意しているだけでほとんど勧めていませんでしたが、スタッフが増えるにつれて通院の提案にばらつきが出てきたため、2年ほど前から仕組みとして使うようにしました。
瀬谷崎は回数券を、患者さんの通院アドヒアランスを高めるための仕組みと定義しています。アドヒアランスとは、患者さん自身が納得して通院や運動を続けていく姿勢のことです。家で腕立て伏せをすれば無料なのに、人はお金を払ってジムに通います。先に払っているから行こうと思える。続けるための仕掛けを自分で買っているわけです。回数券も同じ位置づけで使うなら患者さんの役に立ちますし、売上のための道具としてだけ扱えば、スタッフが家族に勧められないものになります。
マニュアルや回数券の話をすると、必ず「マニュアルが悪いわけではない」「回数券が悪いわけではない」という反論が返ってくるそうです。それは当然で、問われているのは有る無しではなく、その会社がそれを何のために置いているかです。見学では「このマニュアルは誰がいつ見直していますか」「回数券はどういう患者さんに、どう説明して勧めていますか」と聞くと、位置づけが見えてきます。
通院を続けやすくする合意の作り方はアドヒアランスの解説記事で、臨床と売上の関係は臨床と売上は対立しないという記事で扱っています。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎なぜ、とんとんにはあまり紹介が来ないのか
塩田さんの20社の中に、とんとんは入っているそうです。それなのに紹介がほとんどない理由を聞くと、答えははっきりしていました。
グループ院で働いている中途の方は、すでに月30万円前後の給与を受け取っていることがあります。とんとんに移ると、入社時点の給与は下がります。練習に時間を使うので、休みが減る可能性もあります。それでも学びたいという人がどれだけいるか。差が3万円だとしても、生活の中での3万円は重く、そこで踏み切れない人が大半だ、というのが紹介の現場の実感でした。
塩田さんはこう付け加えていました。学ぶこと自体が目的なのではない。学んだ結果が後から給与に返ってきて、前の水準を超えていく。そこまでを見据えて覚悟を決められる人に出会ったら紹介する、と。これはとんとん側の宿題でもあります。下がった先にどう上がっていくのかを、入社前に具体的に示せなければ、天秤には乗ってもらえません。給与の構造については売上があるのに給料が上がらない理由の記事と、倫理観を捨てずに収入を上げる考え方の記事に書いています。
もう一つの条件が引っ越しです。動画の中で塩田さんが挙げた数字では、柔道整復師の求人だけで約8,000件あります。その中で本当に勧めたい会社が20社だとすると、住んでいる地域だけで探した時点で、選択肢からほぼ外れてしまいます。成長したい、変わりたいと思うなら、通える範囲で決めないでほしい。身軽に動けるのは若いうちだけだ、という話でした。
自分の職場を、3つの質問で見直してみる
この3つの特徴は、就職先を探す学生だけのものではありません。今働いている職場にもそのまま当てられます。
- うちの会社は、売上を削ってでも全員が集まる時間を作っているか
- 自分の親が体を痛めたとき、迷わず自分の院に呼べるか
- 仲の良い同級生を、うちで一緒に働こうと誘えるか
- 院長や上司は、患者さんの前とスタッフの前で、人を良くしたいという姿勢が同じか
- マニュアルや回数券が何のためにあるのか、自分の言葉で説明できるか
当ててみて不安が残るなら、一度外を見てみるのも方法です。動画の概要欄には、塩田さんが作った治療家向けの適性検査の案内があります。他の職場を見た結果、やはり今の職場が良かったと思えたなら、それがいちばん良い結末だと塩田さんも言っていました。
とんとんの練習会や研修の様子を実際に見てみたい柔道整復師や鍼灸師の方は、同業の先生の見学を受け付けています。面接で見ていることは採用で大切にしている基準の記事にあります。
瀬谷崎





